今シーズンは、山形市とウラン・ウデ市の姉妹都市25周年記念コンサートと言うビッグイベントでスタートを切った。イベントのチケットは、何日も前から完売で、席が足りないと言う嬉しい悲鳴をあげた。
コンサートには、山形市、ウラン・ウデ市の両市長、そしてハバロフスクから日本総領事という超豪華なお客様にも出席いただいた。御三方の温かいご挨拶から始まり、約2時間のコンサートが開幕された。山形からは、太鼓のグループ"太真"、ウラン・ウデからは地元のバレエ、オペラ、民族舞踊、民族音楽が参加。異民族の異文化が美しくマッチし姉妹都市のテーマにピッタリのコンサートは、観客席総立ちの拍手大喝采を浴び大成功にて幕を閉じた。
今回、僕は太真のリーダー川口先生とのコラボレーションを試みた。
話のきっかけは、今年の夏、僕が日本に帰国した際に打ち合わせの為、初めてお会いした先生の話に超超超感動、感銘した事だった。この様な大イベントなのに打ち合わせはたったの一回。でもしょうがない。やるしかないのだ!
僕の目的は、とりあえず先生にお会いし、太真の演目を聞き、ウラン・ウデ側のアーティストとの調和の取れたプログラムを構成する事。
で、まあ、太鼓の先生だからごっつい方と覚悟していたら、とんでもない。
先生の体は鋼の様に鍛え抜かれているが、なんとも優しい目を持った方であった。
とりあえず、レパートリーの話からはじめ、そして話はだんだんと広がっていく。先生は、もともと体操の選手で、現在は体育の教師である。そして、体育の教師であると共に哲学の教師でもある。
なんか、全く接点がない感じだ。
ところが先生いわく、
「運動と哲学は密接な関係性がある。」
そうなのだ。
僕には、あまりピンと来ない。
「動きの分析は、バイオメカニクス(生体力学)で自然科学的と現象学的に分かれるのです。」
僕には、まだ全然ピンと来ない。
「簡単に言うと、自然科学的とは、
数字に出してはかる。距離とか角度とかスピードとか、、。
ようするに、人間の動きを外側から見る、客観的に見る。」のだそうです。
「それに対し、現象学的運動学は、
主観から入る!のです。
何かがしたいと思う事で体を動かすのです。いつも、すでに何かに向かっているのです。」
「跳びたい跳びたい跳びたい!
よしっ!跳ぶぞ!
よ〜〜し!跳ぶぞ〜〜!
ヤーー!
と跳ぶと、
不思議な事にまわりの人は
その行動を見て
それを感じ、感銘、さらには感動を受けるのです。」
この事を聞き
僕は何かビビビッと感じた。
そして、フワッと今までの疑問が解けたようであった。
人間というのは、感じる生き物なのです。
例えば、産まれたばかりの赤ん坊が、並んで寝ています。1人の赤ん坊が泣くと、それを感じてつられたように隣の赤ん坊も泣き出すのです。」
それが、お母さんにおっぱいをもらっているうちに自分と他人がいることを意識しだすのです。
そうしているうちに、自分の物、他人の物というのが分かれてきて、価値観が芽生えてきます。
植え付けられた価値観に向かって成長する為のプロセスが出来上がってきます。
それがプロフェッショナル、専門家ですね。
ここでは自然科学的な価値観が重視されがちで、そこが大変に危険なのです。ようするに数字にとらわれやすいのです。」
ううう、、、
そうなのだ。
そういう事だったのだ!
先生の話を聞いて、涙が出そうになった。
「先生!素晴らしい!その通りだと思います。」
僕が、憧れ、求め続けるクラシックバレエとはなんだったのか。僕に教えてくれてきた先生方は何を伝えたかったのか。
それが少し分かった気がした。
僕は、先生に提案させていただいた。
「先生!感じる舞台が作りたいです。
是非、先生とご一緒させていただきたい。」
ところが、打ち合わせする時間もリハーサルする時間もない。
でも、一緒にやりたい。
「先生!即興でやりましょう!」
無謀だ。
無謀だけど、でも、現象学的にやればいい。
9月2日。
太真、ウラン・ウデ到着。
到着し休む暇もなく演奏していた
先生の休憩時間に、ホテルにお邪魔し、
僕ら2人のコラボ、最初で最後の打ち合わせ。
9月3日。
僕は、舞台上で先生を感じた。
普段舞台上で僕は常にお客様を感じているが、不思議な事に、この時僕の周りからお客様が消えた。舞台袖のスタッフも出演者も皆消えた。
残っていたのは先生の叩く太鼓の音だけだった。
僕らの演技の後、フィナーレ。
太真の"実り"。この日の朝、ブリヤート民族音楽家の方にこれに合わせて演奏して欲しいとお願いしたら、喜んで引き受けてくれ日本の太鼓とブリヤートの民族楽器が共演した。
曲の後半、太真のメンバーが踊りだす。せっかくだからウラン・ウデの出演者全員も一緒に踊る。
舞台袖で、聞いていたオペラ歌手が、メロディーを口ずさむ。
僕は、彼女の手を引いて舞台上で歌ってもらう。
現象学的。
人の気持ちが繋がるって、
なんて素敵な事なんだろう。
えー、ただいまモスクワに到着。
これから、ペルミに行ってきます。