4月18日ペルミにて行われたこのコンサートは、バレエの世界にとって、そして僕ら出演者にとって特別な意味のあるコンサートであった。
ワシリーエフとマクシモワは、ロシアバレエ黄金時代の代表的なダンサーであり、ボリショイバレエの顔であり、世界的な大スターであった。
僕にとっては、バレエの神様的な存在である。
ソビエト時代、僕は彼らの踊りを生の舞台で見た事がある。
それは、まさに凄いの一言であった。
バレエの事なんて全然分からなかった僕にすら、あまりにも強烈な印象を与えてくれた。
彼らが舞台に出てきただけで拍手が沸き起こり、動き出したら客席が総立ちになった。
気が付いたら僕も手が痛くなるほど拍手をし、大声で叫んでいた。
技術やスタイルなどを、超越した魂の踊りだったのだと思う。
僕にとっての究極のバレエの目標は、これなんだと思う。
だから、その彼らの記念コンサートに出させて貰えるのはとても嬉しく、名誉な事なのです。
僕はこの日の彼らの為に、一曲振付もした。
二人で踊る作品で、マーラーの凄く綺麗な音楽を使った。
ボリショイでは稽古場の時間が遅くからしか空かず、夜の10時11時から始め12時すぎまで振付をする日々が続いていた。
喧嘩をしたり、励ましあったりしてやっと振付終了。
そして、出発の準備が出来たのだが、18日とんでもないハプニングが起こった。
僕は前日にペルミに到着をしていて、リハーサルと照明合わせをしていたが、パートナーの彼女はその日、クレムリン宮殿で上演されていたボリショイの「眠れる森の美女」に出演していた為、18日早朝にモスクワを出発する予定になっていた。
ところが、朝ペルミで待つ僕に、モスクワの彼女から電話がなった。
「飛行機が遅れてるって。」
「わ~、それは困ったね。」
あまりこの状況にピンと来ていなかった僕は、ペルミの関係者に
「飛行機が遅れてるそうですよ。」
と、軽く報告した。
しかし、しばらくしてペルミの関係者の方に情報が入って来た。
「朝の飛行機は無くなって、夕方の飛行機に乗って来るらしい。」
「なぬ??!!それでは、間に合わないじゃん。」
状況は一気に悪化した。
急遽プログラムを変更。
もし、間に合ったら一番最後に付け加える様にし、間に合わなかった場合の為に僕は一曲増やしておく。
(この日、僕は3曲踊った。)
僕のパートナーの他にも、コンサート出場者が3人この飛行機で来るはずになっていた。
(2人はダンサー、1人はピアニスト)
コンサートは一部構成で行うはずだったが開演後、急遽休憩を入れ2部構成にした。
1部上演中に彼らはまだ飛行機で空を飛んでいたのである。
2部の途中でようやく劇場に到着。
2人のダンサーが、僕に踊るべきか相談しに来た。
彼ら2人も前日「眠れる森の美女」に出演していて相当疲れているはず、家に帰ってきて仕度をし、1時間寝て空港へ行き、空港で7時間待たされ、飛行機に乗り、ペルミに着き、そのまま劇場へ直行。
レッスンする時間も無く、体を温める時間も無い。
次の日の舞台もあるので、僕は踊らない事を薦めた。
僕のパートナーはどこに居るのか聞くと、なんと、メイクをしていると言う。
様子を聞きに行くと、
「邪魔しないで!」と怒られた。
凄い!!彼女は踊る気だ!!!
僕は感動した。
結局僕らはこの日の一番最後に踊る事が出来た。
こういうの大好き!!
どんな事があってもとにかく踊りたいという気持ち。
これは、絶対にお客さんに伝わるのですね。
結果は上出来だったと思う。
舞台の後、ワシリーエフとマクシモワがとてもやさしくお礼を言ってくれた。
彼らって本当にとってもとっても暖かいんだ。
人の気持ちを凄く分かってくれる。
あーー。書きたいことがいっぱいあるけど、凄く長くなってしまったので続きは次回に。
岩田 守弘