ブリヤートで働き始めてから5年が過ぎ、いよいよ明日モスクワでの公演。ダンサー、そしてバレエ団全体として、かなりの成長をとげたと実感している。中には自分の成長をしっかりと感じているダンサーもいる事だと思う。
まあ、感じないようではいけないのですけどね。
で、ここで2つに分かれる。
傲慢になりのぼせ上がる人と、
感謝をして謙虚な姿勢を続ける人。
謙虚過ぎるのも考えものですが。
前者は、傲慢になっていることを自分では気がついていない。
運が良いと
どんどんのし上がっていき、周りにちやほやされる。そして更に自分を失っていく。
でも実力がある。努力も人一倍している。人に出来ない事をして、観客を喜ばせる。
バレエダンサーなのだから観客を喜ばせるのが一番の目的とすると、これは否定できない。
素晴らしい絵画があるが、
その画家が傲慢で酷い人であっても作品とは全く関係がない。一枚の絵が100年以上人々に感動を与え続けている価値は計り知れない。
ただ、僕はそういうふうに生きたくない。
そして僕のダンサーにもそうあって欲しくない。
それは、僕に教えて下さった先生方の教えとはそぐわないから。
踊りとは、絵画のように残る芸術ではない。その時一瞬一瞬の儚い芸術なのである。
舞台では、映像に映らない、
そして残らない大切なものがある。
これらの事を強制的に分からせる事は出来ない。
気がつく人は気がつくし、
気がつかない人は気がつかない、、。
今回のモスクワ公演には、偉大な先生方が見にいらしてくれる。
その中の1人にウラジミール・ワシリエフという方がいる。バレエの世界では伝説の人。今年は、日本の国から勲章も授与された。彼は、僕がこの公演に招待した時にこんな言葉を贈ってくれた。
「緊張せず自由に踊るよう。ダンサーの目が輝いているよう。そうみんなに伝えなさい。」
この人こそ、謙虚な姿勢を一生続けてきた人だ。
僕は、その言葉を聞き責任感を感じたと共に感動をしていた。
そして、ダンサー達にこの事を伝えた。
明日の舞台では、全てのダンサーが
全身全霊をかけ最高の演技をしてくれる事を、ただただ心から祈っている。