11月5日チッポリーノ
今回のチッポリーノは、このバレエの振付け者
ゲンリフ・マヨーロフの75才を記念しての舞台でした。
ボリショイでの初演は1977年にあり、今回で230回目。
僕にとっては、おそらくこれがボリショイでの
チッポリーノの主役を踊る最後の公演であったと思います。
子供の為のバレエで
夢と希望そしてユーモアに溢れ
素晴らしい音楽と共に感動を与えてくれる作品。
高度な技術、演技が踊りに要求され
大人が見ても十分に楽しめる名作です。

僕自身とても大好きなバレエ。

このバレエには、沢山の思い出と
特別な思い入れがあります。
僕は、このバレエを通し多くの事を教わってきたのです。

今回、その教わった事を一つ一つ思い出し、
いつもよりも多くのリハーサルをしてきた僕の体は、
今までで一番絞り込んだ状態となっていました。
体重で言えば普段より5キロぐらい落とした所です。
感覚も冴え、力と瞬発力がかなり思い通りに使えていました。

しかし、それと比例して痛い所が出て来ます。
今回は、腰、左足太ももの後ろの部分、左ふくらはぎ、左の足の甲。

でも、本番前は気が細かくなるので
ある程度、気のせいだと思いその痛さは無視します。

本番の日は、普段より早く起き意識を高めます。
劇場にも早めに入り、ゆっくりと時間をかけてストレッチ。
そして、いつものようにアキモフ先生のレッスンを受け、
体の調整をします。
力の入れ具合、体の位置、ポジションの確認、そしてイメージ。
満足いくまで稽古をし
メイクをしてもらい、バレエシューズをならし、
更にウォーミングアップを続けます。
最近の僕は、なかなか体が温まらないので
とにかく走ります。
舞台の上をぐるぐると走るのです。
すると、いつの間にか体の芯が温まり解れて来ます。
それから舞台にも慣れて来て、
少しずつ技の確認に移ります。

それが、一通り終わったところで
アップした体とは逆に気持ちを落ち着けます。

これで、僕の踊る準備は完了です。

衣装を着て、
幕が開くのを待つのみ。

幕の後ろでは、
ダンサー達がお互いに”幸運を”と言い合って上演を待っています。

アナウンスが入り、
舞台上の証明が消え
音楽が始まり、
さあ、開幕!

自分でも興奮と緊張で体中にアドレナリンが漲っているのが分かります。

冷静さを無くさないよう
気を抜かず、丁寧に踊り続ける事を自分に言い聞かせます。

客席には、家族や友人
そしてこの舞台を楽しみにして来てくれたお客さん達、純粋な子供達がいます。
舞台袖には関係者や仲間のダンサー、日本からわざわざ取材に来てくれた方達。
本気で信頼する事ができる人たちが見ているのです。
(変な評論家、バレエを純粋に楽しむ事を忘れて、
舞台の数を多く見ただけで勉強もせず偉そうな事を書く人がいない事を祈って)

皆を信じ、自分を信じ
僕は踊り続けました。
一幕が終了した時点で妻が電話をくれ
褒めてくれました。
客席で見ていてくれた先生や先輩達も
楽屋に来て褒めてくれます。
嬉しいのですが、実はこれが危ないんです。
気が抜けてしまい、2幕の出来があまり良くなくなってしまう時があるのです。

でも、これが最後の舞台だという覚悟があるので
特に気を引き締めます。
2幕の始めに、このバレエの難関である
バリエーションなどの見せ場があるのです。
体力には自信があるので、
技術をきちんとこなす事に集中します。
皆の応援のお陰で(こういうのって本当に分かるんです)
無事に難関突破。
ところが、この時、右ふくらはぎに違和感を感じ始めたのです。

これまで痛めていた所が全部左だったので
「へんだな〜」
と思ったのですが、そのまま踊り続けます。

しかし、その後、約15分経った頃でしょうか、
いきなり右ふくらはぎが強烈につりだしてしまったのです。
それも舞台上で。
つったふくらはぎは僕の意思とは別に
どうしても直らなくなってしまったのです。
跳ぶ事はできないし、回転技もできない。
つま先を伸ばす事すらできないのです。
技を全て省き、芝居を続けます。
舞台袖に入った時に、
非常時の為に待機してくれているマッサージ師を呼んでもらいます。
そして、再び舞台に出て行ったのです。
もう、踊りも何もありません。
歩いて芝居をするのみ。
次に袖に入った時にマッサージ師が来てくれ
舞台裏で応急手当をしてもらいました。

実は、今までここまでひどくなった事が無かったのです。

生まれて初めて、舞台上で体が自分の意志と反した反応をしたので、
びっくりした事もありますが
張りつめていた気がプツッと切れたのでしょうか
訳も分からず一人になって泣きたくなってしまいました。
(男らしくないのでこの頃我慢していますが、そう言えばバレエ学校時代はビービー泣いていたのを覚えています。)

ま、一人にもならなかったし、泣きもしませんでしたけどね。
と言うか、一人にもなれなかったし泣く事もできるわけなかったですけど。
だって、すぐに舞台に出ていってニコニコ笑わなければいけないからね。


マッサージのお陰もあって
無事、残りの演技を終え、、幕が閉まりました。



ちょっとしたハプニングもありましたが
自分としては満足でした。

ここまで頑張れたのも
皆さん、応援のお陰だと思います。
そして心から、感謝をしています。


僕の大切な思い出の一ページだったのでした。


(これを書いているのは、11月7日夜中の3時。
モスクワは只今マイナス9度ですって。)
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by ibashika201107 | 2011-11-07 07:22 | バレエ日記 | Comments(10)
Commented by KYOKO at 2011-11-07 08:18 x
今まで私が、守弘さんにコメントすることがなんか申し訳なくて、1度?2度?しかコメントしたことがありませんが、今日はさせて頂きます!
守弘さんのチッポリーノは、最高です。それだけは、伝えたかったです!
Commented by 真理子 at 2011-11-07 08:35 x
岩田さん、チッポリーノの公演お疲れ様でした。今、舞台のすばらしさと、また大変さにを知り涙がにじんでいます。岩田さんのチッポリーノ、拝見したかったです。
Commented by kitri at 2011-11-07 11:16 x
岩田さん、公演おつかれさまでした。ハプニングの中でも冷静に舞台を進行されて、流石にベテランですね。
そして其の舞台を満足だと思われ回りへの感謝を忘れないなんて、本当に岩田さんはすばらしい方です。
読み進みながら感動の舞台を見たときと同じような感情がわいてきました。  私も岩田さんのチッポリーノを拝見したかったです。
来年のボリショイ公演楽しみにしております。
お疲れ様でした。
Commented by どぅにゃん at 2011-11-07 13:56 x
岩田さん!!!
そうでしたか・・・・。色んな意味で万感の想いありです。
岡山に来てくださったとき、あの時も足を痛めてらっしゃいましたね。だけど、素晴らしい舞台だった。ありがとうございました。
その時の溢れる感動は決して忘れられません。今回のチッポリーノも多くの人の心を動かしたことでしょう!

また、別のチッポリーノを踊りを通してだけではなく、色んな角度から教えてください。
Commented by Fado at 2011-11-07 16:14 x
ただでさえ筋肉だけでできているとしか思えない岩田さんの身体に5キロも絞り込む余地があったとは・・・信じられません。
まるで禅の修行僧のように己を律し、いじめ抜く姿に感動を覚え、少しの悲壮感さえ感じます。
そんな岩田さんの本物の舞台をまのあたりにした子供たち一人ひとりの
心の中に生涯忘れることのない感動が残ったことと思います。

泣いていいですよ。
命がけの舞台を終えられたのですから、涙がでるのは当然です。
Commented by ひろこ at 2011-11-07 20:50 x
チッポリーノおつかれさまでした!全てを出し切った舞台だったのだと思います。思い出のページがまた一つ増えましたねっ!!
Commented by Tomo at 2011-11-08 04:34 x
私はバレエ好きになってから日が浅く、詳しい技術や細かい演出の事はよく分からないのですが、5日の岩田さんのチッポリーノ、とても楽しかったですよ!

舞台の上でそんなドラマがあったとは・・・。そんな岩田さんの大切な想い出の舞台を、客席から見て、花束まで贈る機会にまで恵まれた私は本当に光栄です。

子供はバレエを見るにはまだ小さ過ぎるので残念ながらお留守番だったのですが、どんな状況でもプロとして最善を尽くしたダンサー岩田さんの姿を、出来る事なら見せてあげたかった。

子供にとっても大人にとっても、本当に感動を呼ぶのは、そういった人間の姿だと思うからです。本当に大きな感動をありがとう。

これからもモスクワで応援させてください。舞台、お疲れ様でした。
Commented by あんな at 2011-11-09 05:33 x
このブログを読んで 本当に感動しました。
本番に向けて集中していく様子、 岩田さんをはじめとする出演者やすべての関係者が 心ひとつにその舞台を作り上げていく様子、 そして突然のハプニング・・・・・  ひとつのドキュメンタリー番組を見ているようでした。 でも、舞台上ではそういった自分自身の予定外の状況にも笑顔で冷静に対応していかなくてはならない 岩田さんの孤独。 異常がわかっても 本人の対応に任せるしかない 舞台上のお仲間。 なんとか対応しようと気をもんでいるであろう 舞台袖のスタッフたち。
その日 ボリショイの素晴らしい舞台の陰には そんなドラマがあったのですね。
毎回 その時の舞台を ダンサーとスタッフが 心ひとつに全力で作り上げていく、 それが 観ている私たちを感動させてくれる源であったことがよくわかりました。 
お疲れさまでした、 そして ありがとうございました。
Commented by at 2011-11-09 17:20 x
お疲れ様でした。すごい思い入れがあった舞台。肉離れかな~。それでも踊りきったのは、さすがです。
気をつけて。まだまだ、踊っていただかないといけないから、再発防止してくださいね。
Commented at 2012-01-17 05:42 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
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プロフィール
1970年10月6日生まれ。
天秤座☆
血液型O型
神奈川県横浜市出身。
妻、娘二人の4人家族+猫
趣味は合気道。


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